出会いと大きな光【第七章】
娘は一ヵ月の入院生活となったが、そこで出会った主治医の先生が娘の心を救ってくれた。
その医師は性同一性障害の施設で働いた経験があり、その道にも詳しかった。
娘が胸の内を伝えると、とても親身になって相談に乗ってくれたのだそうだ。
性同一性障害のカウンセリングで、まず最初の一歩として医師が勧めるのは、服装を男モノに変えてみることなのだそうだ。
「でも、もう君はやっているね」
そして、次は髪を短くして男の子のようなヘアスタイルにしてみることだそうだ。
「でも、もう君はやっているね」
次は、男モノの下着に変えてみようと提案し、少しずつ男の子のスタイルに近づけていくのだそうだ。
「でも、それも、もう君はやっているね」
そして、最後は公共の場の男子トイレを使ってみることを勧めるのだそうだ。
「でも、それも、もう君はやっているね」
そう、娘はいつからか公共のトイレも男子トイレを使うようになっていた。
実際、外で女子トイレに入る方が、外見的にもNGだった。
周りの女性から冷ややかな視線を送られたり、娘を見て、慌ててトイレから逃げ出していく人もいた。
ある日、勇気を出して、男子トイレに入ってみると、女子トイレを使っていた時よりもよっぽど平和にスムーズに使えたことから、その日以来ずっと娘は男子トイレを使っていたのだ。
医師は続けた。
「これまで僕が挙げたすべてのことを君はもうすでにやっている」
「君は、これまでたった一人で、その一つひとつを自分の力で切り開いてきたんだね」
「先生はすごいと思う。勇気ある行動だ」
娘は驚いた。
娘は、初めて男性になろうとする自分を肯定してくれる人に出会うことができたのだ。
どんなに心強かったことだろう。
この話を聞いて、私も涙が出そうになった。
それをきっかけに、娘は自分が性同一性障害であることに真っ直ぐに向き合えるようになったと言う。
それまでは、自分の性別が違うとは気づきながらも、この答えで本当にいいのか、どこか不安を抱えたような感じもあったが、自分の道は間違っていないのだと確信したのだった。
娘は大きな光を得て退院した。
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