トランスジェンダーの息子と歩む

子どもからカミングアウトされたとき、親は…

父の葛藤【第九章】

※※※ 『母の覚悟【第八章】』の決意により、我が子の呼称を「娘」から「息子」へ変えています※※※

 

自分の娘から「俺は男だ」と告げられる父親の心境を思うと、それは母親が受ける以上の衝撃かもしれない。


あの子は私たち夫婦にとって最初の子どもだった。

初めて我が子に対面した時の「かわいい〜」と顔をくしゃくしゃにして喜んだパパの顔を私は今も忘れられない。

女の子は父親にとって何よりも愛おしい存在なのだ。
初めて口にした言葉も「ママ」じゃなくて「パパ」だったとパパは自慢気だった。
(赤ちゃんは「マ」より「パ」の発音がしやすいだけだという説を聞いたこともあるが、それはさておき)

とにかく喜んでいた。
でも、「パパ」と呼ばれるのも10歳までだったわけだが。

〈詳しくは『子育てで感じた違和感【第三章③】』〉

息子は父親には口頭で告白した。

でも、
「あなたは男の子じゃありません」
「ホルモン注射もしません」
と一蹴されてしまう。

無理もない。

はじめて聞けばそんなふうに返してしまうのもやむを得ない。

娘の父親なのだから尚更だ。

「なにも身体を男にしなくても、男らしく生きるということではダメなのか」

そう言ってしまった気持ちも、私にはよくわかる。

私は、いつだったか息子がたとえ話で私に話してくれたことをパパに伝えてみた。

「ある日、パパが目が覚めたら、自分の身体が女の身体になっていたら、どう?」

「『あなたは身体が女なのだから、女性です。今日から女として生きてください』と、自分の性別を女性として決められてしまったら、どう?」

「『待ってくれ!違う!オレは男だ!』って抵抗するよね?」

「『この身体は俺じゃない!』て思うよね?」

「心は男なのに女として生きていくなんて絶対無理だよね?」

息子の置かれている立場は正にそういう状態なのだと伝えた。

そして、これまでのこの子の苦しみの根底には、間違いなく性同一性障害の問題があったのだということ、どんな逆境にあっても親だけは味方でいてやりたいということを、ふたりで毎日話し合った。

娘の父親としては、おそらく母親の私よりも、この事実を受け入れるのは相当キツかったと思う。

なかなか受け入れることに抵抗のあった父親も、息子の言葉や行動をひとつひとつ思い起こしていけば、自ずと、彼を女の子と捉えるよりも男の子と捉えるほうが自然であることに気付いた。

もう何年も前から、言動も態度も既に男の子そのものだったからだ。

私がそうだったように、父親もあの子を「娘」ではなく「息子」だと思った方がしっくりくる出来事が数えきれないほどあったのだ。

やがて、父親も心の葛藤を乗り越えて、息子の思いを受け入れた。

ようやく父親にホルモン治療を認めてもらった息子は「これで一歩前に進める」と喜びながらも、父親の思いを察し、自分の気持ちを引き締めたようだった。

ホルモン治療は、日本では基本的に18歳から受けられることになっており、その年齢を待ってすぐに治療を開始したいというのが息子の願いだった。

私たちは何もそんなに急いで治療しなくてもいいのではないか。まもなく成人するのだから(当時は20歳から成人)、それからでもいいのではないか。そう思った。

特に父親は、万一「性同一性障害じゃなかった」となってしまったときに取り返しがつかなくなることを畏れていた。

でも、私は、あの子が男性になれるとわかってからの変貌ぶりを目の当たりにして、もうそんな疑いは持っていなかった。

この子は紛れもなく男の子だ。

だから、周りから、
「いま思春期で多感な時期だから、そんなこと言い出すんだよ」

と言われたときも、

「いまは男の子っぽくても、やがて時期が来れば女らしくなるよ」

と言われたときも、

「子どもが誤って道を外しそうになったときに、その道を修正してやるのが親の役目だろ」

と言われたときも、

私の気持ちがブレることはなかった。

そんな言葉に負けなかった。

 

このまま何もしなければ、息子の身体は歳とともにどんどんと女性らしさを増していく。

なるべく早く治療を始めることで、より男らしい体つきを手に入れることができる。

そんな息子の願いを叶えてやりたい。

私たち夫婦は、息子が18歳になったらすぐにホルモン治療を始めることを認めた。

親というものは最終的には子どもの意志を尊重するものだと思う。


それでも、性別適合手術については今すぐの答えは出せなかった。

身体に医学的なメスが入ることにはどうしても抵抗があった。

でも、戸籍の性別が女性である以上、息子はどんなに男っぽくなっても女性なのである。

「結局、偽物の男なのだ」と淋しく息子は言う。

日本では、いくら「性同一性障害」の診断が下りても、性別適合手術を受けない限り、戸籍の変更は認められていないのだ。

諸外国に後れをとったこの法律に憤りを覚えながらも、性転換についてはもう少し時間をかけて考えたかった。

まずは、今できること、ホルモン治療から始めることにした。

いよいよ女性から男性へと変身する一歩を踏み出すことになる。

もう後戻りはできない。

でも、私は息子の輝く瞳を見て、この選択に間違いはないと改めて確信していた。

 

☆続きはこちらへ

stepbystepftm.hatenablog.com

 

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